周年イベントAnniversary Event

「人間の尊厳賞」 創設記念対談

南山エクステンション・カレッジ公開講演会
  • フリーアナウンサー
    佐藤 麻美 
    Sato Mami
    函館市出身。南山大学の卒業生。HTBアナウンサーとして、主に深夜番組「おにぎりあたためますか」のMCを16年間担当。現在は札幌でフリーアナウンサーとして多岐にわたり活躍。
  • 南山大学長
    ロバート・キサラ 
    Robert Kisala
    アメリカ合衆国(シカゴ市)出身。1995年より南山大学で教鞭を執り、その後、神言修道会日本管区長、総顧問、副総会長などカトリックの各種要職を歴任。2020年4月より南山大学長を務める。

互いの尊厳を、
大切にする社会をつくるために。

創立以来、カトリック大学として「人間の尊厳のために(ラテン語/Hominis Dignitati)」を教育モットーに掲げてきた南山大学。多様性の尊重が求められる時代環境の中、このたび、南山大学「人間の尊厳賞」を創設しました。それを記念し、ロバート・キサラ学長と、卒業生でフリーアナウンサーの佐藤麻美さんによる対談を実施。本賞創設の背景や経緯、そして大学が掲げる「人間の尊厳のために」とは何かについて語ってもらいました。

人は生まれながらにして、かけがえのない価値を持っている。

佐藤麻美さん(以下、佐藤)■今回創設された「人間の尊厳賞」とは、どのような賞でしょうか。

ロバート・キサラ学長(以下、キサラ)■南山大学は、創立当時より「人間の尊厳のために(Hominis Dignitati)」を教育モットーとして掲げています。これは、一人ひとりがまず、自らが生まれながらにして持つ尊厳を大切にしながら、他者の尊厳も認め、互いを尊重し合う社会づくりに貢献することを奨めるものです。「人間の尊厳賞」は、その「人間の尊厳のために」の実現に特別な貢献をしている人または組織を認め、たたえるものです。

佐藤■私には「人間の尊厳」を賞にするということが、とても新鮮で斬新に思えました。創設のきっかけは何だったのでしょうか?

キサラ■この賞の最初のアイデアはロバート・リーマー第4代学長によるもので、そのアイデアを学長に就任したばかりの私に提案してくれたことがきっかけです。その後、私は大学創立75周年にあわせこの賞を創設すべきと考え、このたび実現することができました。賞を創設して理念を広めるというのは、日本では珍しいかもしれませんが、アメリカでは大学が賞を授けるという文化が広く認められています。「人間の尊厳賞」は、南山大学にしかできない特有の貢献であると思います。

佐藤■私も南山大学でこの教育モットーのもと、学生生活を送りました。「人間の尊厳のために」というフレーズは、本当に簡潔ながら力強く、意義深い言葉だなと改めて感じます。私たち人間が生きていく上で、根源的な考え方ですよね。

キサラ■おっしゃる通りです。南山大学ではキリスト教精神に基づいて、すべての人間は神によって、神に近い存在として創られたため、生まれながらにして特別な価値を持っていると考えます。それが「人間の尊厳」なのですが、この「人間を大切にする」教えはキリスト教だけではなく、他の宗教や哲学にも見られる普遍的でかけがえのない価値観だと思います。

今こそ、人間の尊厳を大切にする意味を伝えたい。

佐藤■社会の様々な場面で、人間の多様性が認められてきている今だからこそ、「人間の尊厳賞」を創設する意味が増していると思います。どのような受賞者をイメージされていますか?

キサラ■私は今こそ「人間の尊厳」を大切にすることが重要になっていると思います。自国中心の考え、経済格差の顕在化、移民の拒絶、武力紛争など、他者への不寛容が世界中で問題となる中、寛容の精神を持ち、「人間の尊厳」を守るために活動されている方や組織を表彰したいと考えています。活動家だけでなく、研究者も候補になり得ます。私が担当するキリスト教概論の授業で扱う平和の構築、いのちの文化、すべての人が守られている経済といった教材の中で、この賞に値する研究者にも出会います。ただし、大学関係者に限ることなく、世界の中で「人間の尊厳」のために取り組まれている方や組織を対象に受賞者を選びます。

「自分にできる貢献」。それを、若い世代に考えてほしい。

佐藤■表彰式と受賞者の記念講演会は、南山大学の学生も参加できると伺いました。大学生活の中で、受賞者の講演を実際に聴くことはかけがえのない経験になると思います。この賞を通じて、若い方たちに何を感じとってもらいたいですか?

キサラ■私が学長に就任した2020年は、コロナ禍で入学式や対面授業が行えませんでした。そこで、新入生を夏にキャンパスに招き、本学の理念や私がキーフレーズに掲げる「地球規模の関心、私たちの貢献」を語る特別講義を行いました。その中で学生たちには、世界に視野を広げ、4年間の中で自分特有の貢献を見つけてほしいと伝えました。同様に本賞受賞者の記念講演を聴くことで、「人間の尊厳」がどういう意味をもっているか、自分にはどのような貢献ができるのかを具体化するための機会としてもらいたいです。

佐藤■生きている中で、「人間の尊厳」について深く考える機会はあまりないのではないかと思います。それだけ当然のこととして受け入れられているのか、あるいはそれを傍らに置いて生きているだけなのか…。

キサラ■佐藤さん自身、南山大学での生活でそれを感じる経験はありませんでしたか?

佐藤■私自身の経験としては…。アナウンサーになるための就職活動中、ゼミの先生や仲間が、すごく親身に応援してくれたことですね。就職のため卒業を1年遅らせた末、晴れて地元北海道の放送局に受かった時に、先生や先に卒業した同期、一緒に卒業した一年下の後輩がすごく喜んでくれて、「お前の夢は、俺たちの夢でもある。」とかけてくれた言葉を思い出すと、今でも本当に涙をこぼしてしまうほどです。それが南山の伝統である多様性を受け入れて、他者も自分も大事にするということではないかなと。私にとってかけがえのない、「人間の尊厳」を感じることができた経験でした。

キサラ■「人間の尊厳のために」という言葉は、日本ではあまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、今佐藤さんがお話で示してくださったように、日本人にとっての「思いやり」に通じるものだと思います。それは、文化の一部として当たり前に受け入れられている価値観だと感じます。人の気持ちを考えて行動する、言葉をかける。その一つひとつの具体的なアクションが「人間の尊厳のために」の具現化でもあります。

佐藤■本当にそうですね。さて、この「人間の尊厳賞」は、特別な貢献をされた方を毎年表彰するとのことですが、この長く続く賞を、今後どのような存在に育てていきたいとお考えでしょうか。

キサラ■将来に亘って賞を継続することによって、「人間の尊厳のために」という教育モットーが、南山大学の存在そのものを示すものになればと思います。毎年開催される表彰式と記念講演会を通じて、この賞に込めた本学の理念の深い意味を学生と私たち教職員が再確認するとともに、その大切さを大学の枠を越えて広く社会全体にアピールしていきたいと考えています。

佐藤■毎年どのような方が受賞されるのか、また南山大学が社会の中でどの様な存在になっていくのか、卒業生としてとても楽しみです。今回の第1回表彰式と記念講演会は、YouTubeでも配信され一般の方も視聴できるということです。私も札幌から拝見します。
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